かつての面影はすっかりと失われてしまった、ゴーストの巣窟と化したその洋館に隼人は新しく身につけた技を磨く為に一人で訪れていた。
狼の力として隼人の中で覚醒めた力は…
その時、隼人の気配を嗅ぎつけたのか見るもおぞましい蠢く無数の蟲達が腑汁を撒き散らしながら迫ってきた。
隼人は無数の蠢く敵を見止めると、鼻から深く吸い込んだ息を喉を大きくを開き「はぁぁぁぁ…」と吐き出した。
そのまま腰を深く落とし、まるで野生の肉食獣が獲物に飛び掛るかのような姿勢をとると鍛え上げられた筋肉がメキメキと音をたて更に隆起し始める。
蟲達の一匹が隼人へとあと3m程の距離まで間合いを詰めた瞬間、それまで力を限界まで溜め込んでいた隼人が放たれた弾丸の如く飛び出した。
「おおおぉぉぉぉぉ!!」野獣の雄叫びを上げながら愛刀を横薙ぎに振るい蟲とすれ違う。
隼人に横をすり抜けられた蟲は一瞬の事に何が起きたのか理解できないままに振り返る。
が、隼人が自身の体温を限界まで引き下げ、更にその類稀なるスピードにより引き起こした風で冷却した刃によって引き裂かれ、凍ったことにすら気付かなかった蟲は自らが振り向こうと動いたが為、凍りついた傷口からひび割れぼとりと半身を落とすと二つの肉塊へと姿を変える。
自身の体温を限界まで引き下げた事で傷を負ってもすぐには回復させることが出来なくなるというリスクを負いながらも野獣と化した隼人には関係のないことだった。
魔氷の力で一体を屠った隼人はそのまま流れるような動きで跳ね上がると、空中で体を横回転させ自分の横にいた蟲へと得意の変則的な蹴りを叩き込む。
美しい三日月のような弧を描きながら放たれたその一撃は野獣の力でその威力を更に増していたのか凶悪なまでの破壊力を見せ、犠牲となった蟲の体を粉々に粉砕した。
そこからは紅蓮の狼と化した隼人の一方的な狩りが始まる…
数分の後…キーキーという蟲達の断末魔の悲鳴が止み静寂を取り戻した洋館の一室で、腕や首を回しながら運動後のストレッチかのように体をほぐしている隼人がいた。
「う~ん、まぁ、まだこんなもんかな…」
不満そうに、まだまだ使いこなしているといった感ではない感想を漏らす隼人だった。
が、隼人の後にした部屋の中には大量の肉塊が散乱し、一方的な殺戮の惨状が広がっていた…
月のエアライダー
純粋結社“戦”に
入寮中。