無論、野生の力が覚醒めた事で身についた新たな力を試す為だ。
崩れかけた階段を降りると、人型をした真っ黒なタールのようなねっとりとした体に一つ目を見開き佇む影が待ち構えていた。
その人型をした黒い影が腕を薙ぐ様に振るうと、間合いはまだ10mはあろうかというのに隼人の目の前に黒い影の鉤爪が出現し、隼人の体を引き裂かんと振り上げられた。
振り上げられる鉤爪に合わせ、隼人は冷静に宙返りで攻撃をかわすと更に敵との距離が開いたというのにそのまま攻撃態勢に入る。
遠距離攻撃とは珍しい…いや、むしろ初めてのことかもしれない。
本来はその獣の如き敏捷さを活かし、スピードに任せて一気に敵との間合いを詰め超近接戦闘に持ち込むスタイルを好む隼人だが、この日は違った。
狼の騎士達のよってもたらされたその力は近距離、遠距離共に凄まじいまでの破壊力を秘めた技だ。
隼人は愛用の短刀を軽く握り、体の正面で垂直に構え己の腕と短刀で十字作り出すと叫んだ。
「クロス!!」
直後、隼人の腕と短刀で作り出された十字が光輝き始めたかと思うと光の十字架が現れる。
そして、光の十字架は遥か前方に佇む黒い影へ弾丸のように弾け飛んだ。
十字架が飛び出してから続けざまに、「トリガー!!」と叫びながら、隼人は獣のオーラを纏った自慢の脚を振り上げ、残像で脚が数本に見えるほどの速さで数十発の蹴りを繰り出した。
隼人の繰り出した無数の蹴りからは野獣のオーラが弾丸となって放たれ、先を行く光の十字架を追尾する。
だが、標的である黒い影は迫り来る光の十字を体を横にスライドさせ難なくかわして見せる。
隼人の攻撃をかわした影がすかさず反撃に出ようとしたその時…
かわしたはずの十字架は反転し黒い影の後頭部へと貼り付いた。
闇の住人である黒い影にとってその光の力だけでも痛手ではあったが、さらに追い討ちをかけるように弾丸と化した獣のオーラが十字架の紋様めがけて突撃してきたのだった。
ズドドドドドドドド!!
全ての獣弾が撃ち込まれたあと、頭を吹き飛ばされた黒い影はピクピクと腕を痙攣させると床に崩れ落ちた。
「おぉ~!命中命中♪」
遠距離攻撃などしたことのなかった隼人だったが、なかなかこれで光の十字架を撃ちだす技を自分のものにしたようだった。
月のエアライダー
純粋結社“戦”に
入寮中。