梅雨…
一見するとじめじめとした憂鬱な印象を与えるこの季節
だが、そんな季節にも捉え方によって風情はあるわけで…
「ふぇ~、この湿気どうにかして欲しいっす…」
金曜の午後、もともと暑がりの隼人が人によってはまだ肌寒く感じるであろう
気温にもかかわらず汗をかきかき部屋で団扇を扇いでいた。
「隼人、入ってもいいk」
「もちろんっす♪」
ドアをノックしようと沙紅夜が部屋の中へ向かって声をかけた瞬間
勢いよく開いたドアからは沙紅夜の言葉を遮って歓迎の返答が発せられた。
動物並みの感覚を持ち合わせる隼人にはその足音から
沙紅夜が部屋の前にやってきたのを事前に感じ取っていたのだった。
「Σ!?い、いつもの事ながらその感覚の鋭さには驚かされるな…」
苦笑いを浮かべながら沙紅夜は部屋の中へと通される。
「ところで、何か用だったっすか?」
「いや、今度の欧州遠征の件でな…隼人は誰と組むか決めているのか?」
「もちろん、決めてるっすよ♪」
隼人の屈託のない笑顔に沙紅夜は少し表情を曇らせ答えた。
「そ、そうか…」
「って、沙紅夜さんに一緒に組んでもらおうと思ってたんすけど…?ダメでした
?」
落胆の色を見せていた沙紅夜の顔が華を咲かせたように明るく輝く
「まさか!?ダメな理由がなかろう!」
「へへ♪よかった、俺の背中を安心して任せられるのはやっぱ沙紅夜さんしかい
ないっすもん♪」
この無邪気な少年が、戦場では敵を震え上がらせる魔狼の如き闘士なのだと思う
といつも信じがたい気持ちになる。
「私も隼人といれば戦場でも安心して戦える…」
隼人の隣に腰掛け頭を隼人の肩へとあずけながらつぶやく
自分の前では可愛らしい仕草を見せる愛しい恋人が、一度敵を前にするれば凛然
とした鬼百合と揶揄される武士へと変貌する様を思い出し味方でよかったとつく
づく思うのだった。
「あ、そうだ!しばらくヨーロッパに行って帰ってきたら梅雨も明けちゃってる
でしょうから紫陽花でも見に散歩に行きません?」
恋人の肩にもたれかかり幸せに浸っていた沙紅夜は突然の提案に驚きつつもすぐ
に優しい微笑を浮かべ
「…ああ、そうだな。雨の中紫陽花を見に歩くのも悪くないか…」
「じゃあ、早速行きましょう♪」
しばらく後、色とりどりの紫陽花が咲き誇る裏山の一角で和服の少女が紅い狼を
共に梅雨の花見を楽しんでいた。
月のエアライダー
純粋結社“戦”に
入寮中。