満天の星空の下、まるで天からこぼれ落ちそうな月の光を浴びなから一陣の風の如く駆け抜ける影が三つ…
四本の足で力強く大地を蹴り疾走する姿…本来であれば日本の街中では目にすることなどあり得ない誇り高き森の王…狼…
その姿を見た者もあまりの速さに野犬が駆け抜けたとしたか思わないであろうが、明らかに犬では出せないであろう速さで疾駆するその三つの影は市街地にある建設中止になった工事現場へと向かっていた。
ノーザンシティ米沢
建設中に数多の事故に見舞われ計画自体が頓挫してしまったその工事現場跡は、作業中の姿そのままに残留思念と魔物の集まるゴーストタウンと化していた。
ゴーストタウンの入り口とおぼしき封鎖された金網の前にいつの間にか三頭の狼の姿があった。
まるで黒と見紛う深い灰色をした美しい毛ヅヤの一頭を中心に全身に無数の傷跡を持つ耳飾りと首飾りをした深紅の一頭と銀狼を思わせる見事な灰毛をなびかせ佇む一際大きな一頭が両脇をかためる。
周りを見渡し人がいないことを確認するとその三頭の狼はみるみるその姿を変え人の形をとった。
一瞬の後、狼がいたはずのその場所にはセーラー服の女子高生と白い革のジャケットを羽織った少年、顔が隠れるほど襟の高いベージュの軍服を着た軍人が立っていた。
「ふぅ~、やっぱり狼形態だと早いっすね♪」
紅い髪の白ジャケットを羽織った少年はそう言うとウエストバッグからスポーツドリンクの入ったボトルを取り出し他の二人に投げ渡した。
「恐縮であります!…まったく、事故で電車が止まった時はどうなることかと思ったでありますが、秋殿の言う通り狼になって来ると来れるものでありますな。」
軍服の男はスポーツドリンクを片手でキャッチすると礼を言い 、ここまでたどり着いた感想を述べた。
「お、サンキュー隼人♪ね~、だから言ったでしょ?狼になって走っちゃえば100キロくらいどうってことないって。」
とんでもない事をさらっと言ってのけるとセーラー服の女子高生は、紅い髪の隼人と呼んだ少年から渡されたスポーツドリンクをごきゅごきゅと一気飲み干す。
結社“戦”の人狼三人組で新しく発見されたというゴーストタウン見学に行ってみよう!というノリで山形に向けて出発したものの途中、土砂崩れということで電車が止まってしまったのだ。
鎌倉から来た三人は山形までまだゆうに100キロはあるという中途半端な場所で立ち往生する事になってしまった。
そこで元気満点野生少女の秋が狼になって走っちゃえばいいじゃん♪と言い出しここまで走ってきたというわけだ。
一息ついて喉の渇きを潤した三人は新たに発見されたという残留思念渦巻く工事現場へと足を踏み入れるのだった…
月のエアライダー
純粋結社“戦”に
入寮中。